ライフシフト・プラットフォームという、これまでにはなかった全く新しい概念を実現しようとしているニューホライズンコレクティブ。この前例のないネットワーキングの試みにNHが体当たりで奮闘している様子は、このサイトでもニュースや記事の形で随所に散りばめられています。
ところで「ライフシフト」とは一体どんな生き方をいうのでしょうか?
その問いの答えに定説はまだなさそうです。ライフシフトはまさに十人十色、ライフシフターの皆さんは様々な人生経験や思いを背負って、新たな挑戦の日々を送っています。
そんなライフシフターの日常に迫ろうという動画が、YouTubeチャンネル「ライフシフト図鑑」です。かくいう筆者もプロジェクトメンバーの1人として制作に関わっています。そこで、この春立ち上がったばかりの生まれたての動画チャンネルがどのように作られているのか、制作チームや取材を受けた人々の声などをレポートします。
株式会社1/1 代表取締役
クリエイティブディレクター / ビジネス戦略プランナー
京井良彦
京井良彦さんのプロフィール:
デザイン思考によるビジネス課題の解決、新事業開発のコンセプト開発、経営ビジョンの策定などを手掛ける。デザイン思考の企業研修やワークショップも多く実施。東京都都市大学非常勤講師。著書に「学校でも会社でも教えてくれない企画・プレゼン超入門!」など。
Leapfrog合同会社 代表
公認会計士、ビジネス英語トレーナー
江上徹
江上徹さんのプロフィール:
「会計×英語」の掛け算を武器に、コンサルティング、監査(内部・外部)、企業研修など幅広い対応が可能です。【会計】公認会計士として監査法人で約10年、企業会計でも約10年の実務経験を有し、会計はもちろん、監査、内部統制等の深い知見を有しています(公認会計士登録番号:41477)。【英語】通算約5年の海外赴任に加えて、企業在籍時には海外拠点の窓口として日常的にビデオ会議等を行っており、実務に耐えるレベルの英語力を有しています(TOEIC975点)。【実績】「会計×英語」の豊富な知見を活かし、これまでに以下のような実績を重ねてきました。・新会計基準の導入コンサルティング・経理部門における決算業務のサポート・監査業務・内部監査部門における海外拠点のJ-SOXサポート 等 また、帰国子女ではなく、積み重ねにより英語力を獲得してきた自身の経験を踏まえて、普通の日本人がどのように英語力を伸ばすべきかという観点で企業研修等にも対応可能です。
Creative Placemaking Director
小川滋
小川滋さんのプロフィール:
都市開発、ローカルのまちづくり、文化観光などの領域で事例を挙げながら、わかりやすい形で相談に応じます。実際に現場をうろうろして「きれい」「びっくり」「やべーっ」と大小あれこれ再発見します。同時に鳥瞰的に自然、歴史、文化がもたらす”場所の力”を紐解きます。強みは活かし、弱みを受け流したりキャンセルしたりして、よりうまくやっていけそうな地域や都市の在り方を描き出していく。そういう空間的、時間的に大きな人と環境のインタラクションを分析したり、デザインしたりします。
X ARTS
クリエーティブディレクター、アートディレクター、グラフィックデザイナー、プロダクトデザイナー、キャラクターデザイナー、クリエーティブ・ストラテジスト、ビジネスデザイナー
志喜屋徹
志喜屋徹さんのプロフィール:
沖縄×ARTS
ビジネス×ARTS
SDGs×ARTS
地域×ARTS
伝統文化×ARTS
中小企業×ARTS
特許×ARTS
教育×ARTS
100均×ARTS
もったいない×ARTS
ライフシフターの「内面の声」を織り込んで、その人の物語を紡ぐ
このインタビュー企画の制作意図などについて、プロジェクトマネージャーのIさんが語ってくれました。
ーこの企画はインタビューの仕方がユニークですね?
「人生100年時代のインタビューというと、長寿社会の世の中的な関心事、すなわちどうやって食べていくのかなどの話が想像されがちですが、この動画ではライフシフトのハウツーや独立を目指した人の活動紹介にとどまらず、個人の内面的な声を織り込むことを大切にしました」
「インタビューに際して、対象者にはまず事前のヒアリングで人生の印象的なシーンを思い返して頂きます。そして本番のインタビューでは、心の中で種火のように消えることのなかった幼少時代の憧憬とか、人生を大きく変えることとなった出来事とか、天職とは何なのかという自問自答とか……そういったものをコメントで紡ぎ出すように心がけています」
ーそのような深掘りのインタビューにした意義は何なのでしょう?
「伺いたいのは、『悔いなく生きるためのヒント』ということができます。うまくいかないことや日々の後悔はつきものですが、限りある人生のなかで、誰もが真の喜びとなるものを持ち、喜びを感じたいはずだと私は思っています」
「その問いは、自問自答するだけでは不十分だと思います。インタビューでそれを問いかけているのは、それを言葉にして詳らかに他者に共有することで、初めてご本人もリアリティーとして捉えられるのではないかと思うからです」(Iさん)
人生を客観的に表現することに楽しさを感じながら、悩むことも
この真剣勝負のようなインタビュー動画の制作を担当するのは、意外にも30代の若い世代です。制作を担当する早瀬魁人さんと川口瞬さんに取材の苦労などを聞きました。
ーライフシフト図鑑の制作に携わる中で、苦労することはありますか?
「ライフシフト図鑑は、人がライフシフトをしようと思い立ったときの原点を探るコンテンツです。様々な経験をしているライフシフターの人生だからこそ、表現・編集方法に迷うことも多いです。ある出来事をきっかけに明確にライフシフトをしようと思う人もいれば、物心ついた時から頭の片隅にある想いが積もり積もって、行動に移った人もいます。人生のストーリーは十人十色ですから、もちろん表現方法も変わってきます」
ー若い世代から見て、ライフシフトをどう思いますか?
「ライフシフトとは、自分がこれまで築いてきた環境を抜け出す、とても勇気が必要なことですが、メンバーの皆さんの話を実際に聞いてみると、自分ももっと挑戦していかなければならないと感じますね」
「ライフシフトは、転換というよりは、これまでの人生があるからこそ好きな道に進むためのスイッチなのかなと思います」(早瀬さん、川口さん)
写真:京井良彦さんは、「生涯を青春として生きる」コツを語ってくれました
https://www.youtube.com/watch?v=T6P9RHGAu-Q&t=5s
始まりは、ビジネスにおける個人技を形式知化する試みだった
実はこの企画、最初からライフシフトをテーマとしていたのではなく、意外にもNHメンバーの個人的メソッドや個人技のようなものをヒアリングし、まとめようとしたのが始まりでした。先述のIさんが振り返ります。
「電通にいた頃から、誰もが専門的な業務知識以外にその人ならではといった技能や才能を持っていることに興味を持っていました。例えば役職や肩書に関係なく、取引先との打合せなどで普通では聞けないような話を聞き出してくる人がいます。観察すると、その人ならではの絶妙な相槌のテクニックがあったり……それってある種の個人技ですよね(笑)」
「ところが人は普段、組織の中ではそういった個人の技法についてあまり他人に語りません。個人として培ってきた知的背景なども同様です。だから組織の中にはそういった暗黙知のようなものがたくさんあります。そういったものを形式知化できれば、それは大きな資産になるだろうと思ったのです」
そのような趣旨から、当初このプロジェクトはIさんの意向で「自分知(じぶんち)プロジェクト」と名付けられていました。しかしその後の数ヶ月に及ぶ企画会議を経て、むしろライフシフトをいち早く実践しているNHメンバーのリアルをフィーチャーすることで、「人生100年時代を青春として生きる」ためのサンプル集を作ろうという方針に決定、ライフシフト図鑑の構想が生まれました。
写真:「4,50代は人生の折り返し地点ではなく、新たなスタート」と語る江上さん
https://www.youtube.com/watch?v=4v9gInZRui0&t=7s
4人のNHメンバーのライフシフト観を、さらっとおさらいすると
2023年7月現在、ライフシフト図鑑はすでに5本の動画が公開されています。そのうち4人NHメンバーです。
最初の収録となったのは、クリエーティブディレクターであり戦略プランナーでもある京井良彦さんです。独立を機に、電通社員時代から続けている大学講師など「教える仕事」の比重を増やしているという京井さんは、ライフシフトのエッセンスを「フロンティア精神」と表現しました。
後進の指導をしながら、新しいことも意欲的に取り込む……今後ご夫婦での米国大学院留学なども視野に入れているという京井さんにとって、「新たなことを学び、それを次の世代に教える」というサイクルがそのままライフシフトなのだといいます。
第2回に登場した江上徹さんは、ライフシフトを「人生の折返し地点を新たなスタート地点に置き換えること」と位置付けました。具体的には、社会のために自分にできることは、本業の仕事以外でもどんどん行動に移していくことです。
電通時代に公認会計士として国際的な仕事に多く携わってきた江上さんは、「言葉のコンプレックスがなくなれば日本人はもっと世界と渡り合える」との思いから、会計関連の本業の傍らで、会計や業績管理など高い専門性を伴う英語を教える塾を立ち上げました。
また近年よく聞かれる幼稚園等の園バス置き去りによる不幸な事故に心を痛め、それは初等教育の現場における重すぎる責任と慢性的な人手不足が原因との強い思いから、幼稚園や小学校に向けて子どもたちの管理業務などを効率化するツールを開発しました。今後は全国の初等教育の現場に広めていきたいと決意を語っています。
第3弾の取材を実家のお寺で受けた小川滋さんは、大学時代に劇団で照明を担当していました。演出家や役者でなく照明をしたのは、いったん作り上げられた芝居が「最後の光の当て方でガラッと変わって見える」ところに惹かれたのだそうです。
子どもの頃から地図に親しみ、さまざまな書籍から地政学、はては日本庭園の文化的価値までを「独自の視点で読み解く」ことを生業としてきた小川さん。全国各地のまちづくりから観光振興、さらにはアンドロイドオペラの公演サポートに携わるなど、その活動ぶりは実に多彩です。
ライフシフトとは「迷う贅沢」と答えて法衣姿でにっこり微笑む小川さんにとっては、自身の人生もまたゆっくり読み解いていくべき対象なのかもしれません。
最新号に登場する志喜屋徹さんの幼少時代には、故郷の沖縄は米軍の払下げ品で溢れていました。それは身の回りにあるものは最大限活用するという沖縄の人々の生活の知恵であり、志喜屋さんの「レディメイド」的なアートの作風に影響を与えました。
長じて電通でアートディレクションをしていた志喜屋さんの転機のきっかけは、2019年に起こった首里城の全焼でした。今もなお沖縄から失われていくものがあるということを強く意識した、と振り返ります。
現在ではクリエーティブディレクションなどの仕事の傍ら、米軍放出品などの素材を使って、沖縄の歴史や戦争の負の記憶をポジティブなメッセージに昇華するアート作品を発表している志喜屋さん。そのライフシフト観は「人生の伏線回収」です。
「時に立ち止まって振り返ることで、過去は伏線として今後の人生に活きてきます。他の誰のものでもない自分の人生、自分の物語の主役をしっかり全うすること。それが一つの個として世界に存在する理由であり役割だとアート的には考えます」(志喜屋さん)
写真:「立ち止まって振り返るからこそ、それまでの人生が伏線として生きる」と語る志喜屋徹さん
https://www.youtube.com/watch?v=KESyGWaDtg0&t=8s
NH以外からは、あの大ヒット曲の作詞作曲家も登場!
多様な生き方を取材するライフシフト図鑑では、NHメンバー以外のライフシフターも取り上げています。
その初回はなんと、田原俊彦さんの「はっとして!Good」や少年隊の楽曲、最近もキンプリの楽曲を手がけている音楽家の宮下智さんことウォーマック夕美子(ゆみこ)さんでした。
ジャニーズお抱えの売れっ子作詞作曲家というキャリアのピークで仕事を辞めて結婚、渡米。そして近年では、カリフォルニアの山火事での自宅延焼を機にすべてを断捨離して帰国すると、今度はエッセイストでワイナリーを営む玉村豊男さんからの勧めもあってショコラを作り始め、現在は自由が丘で「世田谷トリュフ」というお店を経営しているウォーマックさん。
人生は「ハッとしてGoodの連続」と言い切るウォーマックさんの半生は、ライフシフトという一言には収まりそうにありません。
収録を終えたウォーマックさんに取材の感想を伺うと「スタッフの皆さんが本当に好い人たちで、とても楽しくできましたよ!」と笑顔で答えてくれました。
取材や収録を通じてウォーマックさんはいつもポジティブで楽しそうで、話を伺うだけでこちらも楽しい気分になります。そのポジティブさこそ、ライフシフトの達人の最大の素養なのでしょう。
YouTubeでは、そんなウォーマックさんの「明るい潔さ」とでも呼ぶべきライフシフト観に触れることができます。
写真:人生は「ハッとして!Goodの連続」と語るウォーマック夕美子さん
https://www.youtube.com/watch?v=kU4EuR6G_cU&t=7s
「枠」から逸脱したライフシフトに「型」はいらない
ライフシフト図鑑で公開されている5名は、いずれも魅力的な生き方をしている人たちであり、生き方のサンプルとしても多様性に富んでいますが、取材対象者はどのように人選しているのかは少々謎です。
取材を受ける方もその疑問は同じで、京井さんは初めて取材のオファーを受けたとき、やや当惑したといいます。
「正直なぜ、僕なのかな?と思いました。NHメンバーの中には海外移住や新しいことにもっとダイナミックにチャレンジしている人がたくさん いるのに、と。でも逆に僕のように等身大のケースに共感する人も多いのかなとか、いろいろ考えました」
ライフシフト図鑑の人選については、制作サイドのひとりである筆者が回答したいと思います。
私は、そもそもライフシフトとは従来の会社員的生き方の『枠』から逸脱しようというアクションであり、その仕方は人によって異なるのが当然だと考えています。したがって、そこにあらためて『型』を見出すのは難しいし、その必要もないのではないかと思っているのです。
例えば海の生きものを例に取ると、彼らは本当に多種多様で共通の『型』はありません。逆にそれだからこそ、私たちは海の生き物たちひとつひとつの生態や個性に興味を覚えます。
我々人間についても全く同じことが言えるのではないか、というのが私自身の「ライフシフト図鑑」の設計思想であり、ライフシフトのサンプル集らしくタイトルに「図鑑」とつけました。
シリーズが続くほどに様々な生き方のサンプルがカオス的に広がっていくことをイメージしながら作っています。YouTubeチャンネルをご覧頂く皆さんには、ライフシフターたちの多様な生き方のいずれかに興味や関心、できれば共感を覚えて頂けたら嬉しいです。
写真:「正々堂々と、迷う機会が与えられたことに感謝したい」と語る小川滋さん
https://www.youtube.com/watch?v=B3tziRXEl7k
ライフシフト的生き方は伝染する!
そんなライフシフト図鑑ですが、その社会的インパクトについてはまだ未知数といったところです。その理由として関係者が異口同音に挙げるのが、登録者数と再生回数の少なさ。登録者数はまだ数百で、立ち上がったばかりということを差し引くとしても、登録者数を増やすことは喫緊の課題です。
しかし数字には表れないものの、今回の取材を通じてこの動画が世の中に影響を与え始めている様子も少しずつ見えてきました。まずは取材を受けた皆さんの声です。
「仕事の相談はないですが、『学ぶことが好き、教えることも好き』という姿勢に共感したと言ってくれる人は少なからずいました。他にもサロンにお誘い頂いたり、読書会登壇のお声がけを頂いたり……これも仕事といえば仕事ですね」(京井さん)
「仲間うちの会食で『文化人だね』と、いい意味で?いじられました(笑)」(小川さん)
さらに取材を受けたメンバーからは、ビジネスでアプローチする相手にこの映像を見せられる、名刺交換した相手にリンクを送りたいなど、動画は自己紹介ツールとして使えるという声も聞かれました。
この動画の影響についてもっとも語ってくれたのは、取材に立ち会い内容を精読した制作スタッフの皆さんでした。
NH広報担当の川前志穂さんは、ウォーマックさんの「あの世にもっていけるのは思い出だけ」という言葉が強く印象に残っています。
「あんなに可愛らしくさらっとお話されましたけど、結構なライフシフトを何度もされてますよね。山火事が究極の『モノの断捨離』をしてくれたけど、それ以前からモノやコトに執着せず、常に自分の幸せやワクワクを選択できる感覚をお持ちだったのだと思います。でも私がもしウォーマックさんほどの経歴をもったら、絶対に過去に執着すると思うんです」
制作の早瀬さんと川口さんにとっては、小川さんのコメントが非常に印象的でした。
「小川さんにライフシフトとは?という質問を投げかけたところ、笑顔で『迷う贅沢』と回答を頂いた、その言葉に強く共感しました。様々な制約から離れ、現在は自分のしたいことをゆっくりと『迷える』機会を噛み締めている小川さんの言葉は、その機会があったら大切にしようと感じさせてくれるものでした」
ライフシフト的生き方の「リアル」を記録し、図鑑化することで、それに共感し、実践する人を増やしていきたいというこのプロジェクトは、ゆっくりと、しかし確実に反響を呼び始めているようです。
ライフシフトとは、自分の人生の中に隠れている「宝もの」を探し出す生き方です。 YouTubeチャンネルをご覧頂く皆さんにも、ご自身の人生の中で「自分ならではの宝」探しを楽しんで頂けたら何よりですし、ライフシフト図鑑が微力ながらそのきっかけになることを、制作チームは願っています。
ライフシフトTV:https://www.youtube.com/@lifeshift_tv