人々を熱狂させる仕掛け作り。YouTubeから巻き起こすコンテンツ事業の新しいカタチ。

ニューホライズンコレクティブ(NH)のメンバー・深井久吉さんからいただいた名刺の裏には、YouTubeの人気チャンネル『トクサンTV』『ヒューマンバグ大学』『マリマリマリー』などのタイトルがずらりと並んでいる。チャンネル登録数がそれぞれ77.8万人、187万人、145万人を誇る今を時めくコンテンツ群である。これらの価値あるコンテンツをより多くの人に届けるためにあらゆる手段を思考し仕掛けているのが深井さんの現在のお仕事。2020年に電通を退社し、広告ビジネスからコンテンツビジネスへの転身。どのような経緯でこういった道のりをたどることになったのだろうか、そしていま、なにを目指して走り続けているのか、お話を伺うことができた。

株式会社TRADESMAN / 株式会社ケイコンテンツ
YouTubeマーケティングディレクター

深井久吉

深井久吉さんのプロフィール:
大阪府堺市出身。神戸大学卒業後、塩野義製薬、IMJ(現アクセンチュア)を経て(株)電通へ。 デジタルマーケティングやコンテンツマーケティング業務に長年従事。 生活者と企業とのオンラインとオフラインを掛け合わせたコミュニケーション戦略全体の プロデュース業務と実行部隊を指揮することを得意とする。 現在は、多数のYouTube CHの運営、およびマーケティング事業に猛烈に力を入れ活動中。 ーーーーーーーーーー #会ったら虜 #YouTube CH プランナー #YouTube CH マーケター #YouTube×YouTubeコラボ仕掛け人 #YouTube IP 価値最大化 #沖縄料理屋プロデュース #オンラインとオフラインの融合師 #コンテンツマーケティング22年戦士 #湘南街づくりアドバイザー #愉快なファシリテーターw

下地はオンラインとオフラインの経験値

2003年に神戸大学を卒業、1年ほど製薬会社で営業を務めたのち、当時はまだ新興のメディアであったインターネットを扱う大手WEBインテグレーション企業(※1)に転職した。もともとメディア関連の仕事に携わることを希望していた深井さんだったが、まずここでオンライン上のマーケティングについて様々な知見を得ることとなる。ただオンライン・オフラインの両面でマーケティング戦略を考えていきたいという強い思いがあり2012年にさらに活動の場を変える決断するのだ。 「それまではデジタルの世界のマーケティングを主としてずっと仕事をしていたのですが、メディアに対してフラットな視点を持って、広く多角的にコミュニケーションというものをとらえてみたいと思うようになったのです。当時WEBメディア系の人材は各社求めていたこともあって電通へ中途採用されました。転職直後はやはりデジタルを駆使したPR業務、主にオウンドメディア(※2)の開発に携わる部署に配属されました。しかし、そのあと自ら異動願いを提出し、いわゆるイベントを企画実施するような部署、プロモーション局に移ったんです。オンラインだけでなくイベントのようなオフラインの仕事、この両方のコミュニケーションに通ずる人間になりたかったのです。G20など大きな国家事業規模のイベント運営にも携わることもできて場数を踏みました」 オンとオフ両面のコミュニケーションに精通すること。電通在籍中のこの経験が、深井さんの中に大きな自信と変化をもたらすことになる。 「そんな時にNHの制度の話があって。僕の場合はライフシフトを特段考えていたわけではないのですが、やりたいことで精一杯楽しく生きたいという気持ちもあり、まあ何とかなるやろ、、、と手を上げました・・笑」 そして2021年に独立。深井さんのまた次なるチャレンジが始まるわけである ※1:WEBインテグレーション;WEB上の異なるシステムや情報を連携させ、仕事を効率化したり消費者に購買行動を起こさせる手法 ※2:オウンドメディア;ホームページなど自社が持つメディア

YouTubeを飛び出して

取締役COO兼マーケティング統括責任者として深井さんが現在所属する株式会社ケイコンテンツは、冒頭で記したようなYouTubeチャネルを企画配信する映像クリエ―ター集団である。またそれぞれのコンテンツの著作権社であり、IP事業社(※3)でもある。 独立後すぐにこの会社に参画するに至った経緯を深井さんは、 「なんといってもまずコンテンツがオモロイと思いましたね。商品にほれ込みました。例えば配信中の『ヒューマンバグ大学』は任侠の世界を描くアニメコンテンツなのですけれど、登場するキャラクターがとても個性的でそれぞれにたくさんのファンがついているんですよ。だったらそれをYouTubeの世界だけでなくもっと様々な形で消費者に知ってもらい市民権を持たせるべきだ、という話をしたんです。社長の平山勝雄君も同じ気持ちだったので、だったらと、僕が会社にジョインすることになったのです」 と語る。つまりオンラインとオフラインのコミュニケーションを熟知した深井さんの手腕がまさにここで必要とされたのである。ちなみに創業者の現CEO平山勝雄さんは大学時代の野球部の同期だそうだが、同期としての気の置けない間柄を超えて氏のキャリアを見込んでのスカウティングだった。 そしてここから深井さんの縦横無尽な施策が始まる。 「『ヒューマンバグ大学』で配信中の1つのシリーズが完結するタイミングを狙って、渋谷にファンが集まるカフェ・ohaco.cafeを立ち上げました。あれよあれよと4000人くらいの予約が入りました。来店したお客さんはそこで他では観られない動画を観賞したり、作品やキャラクターにちなんだグッズを買ったりフードを食べたりできるのです。一生懸命に作った空間でファンの皆さまが楽しんでくれている姿を見ると本当に感動しました。次は大阪でも開店予定です。また昨年末に舞台化してアニメをリアルな世界で再現することもしましたね。これも4000人くらいの動員がありました。今後は書籍化、テレビアニメ化、映画化も目論んでより市民権を得るコンテンツになるためにこれまで以上に必死に進めていきます」 また『マリマリマリー』は令和の世代の若者の日常を独特の世界観で描いたショートコントアニメだが、アパレルグッズとして販売すると常に秒で売り切れになるそうだ。Z世代向けのコンテンツとして制作されたものだが、その希少性もあり彼らをターゲットとして設定する各企業からコラボレーションの申し込みが次々に寄せられている状況だ。 このように各コンテンツは、深井さんの手によってYouTubeの枠を飛び出し、いま様々な場面で躍動し始めている。 ※3:IP事業社;所有する知的財産をもとにライセンス使用料などの収益を得る会社 (以下写真:ohaco.cafe店内)

NHメンバーとしてライフシフトを世に浸透させることも使命

「こんなことをやっていると面白いもので、NHさんからもお声掛けいただくことになるのです・笑」 NHも『Life Shift TV』というYouTubeチャンネルを展開している。NHの活動の紹介、またそれまでのキャリアをいかしてライフシフトを図る人たちにエールを送るために作られたチャンネルだが、開設当初は再生数が伸び悩んだ時期があった。そこで深井さんに声がかかったという。 「うちにはキャスティングが強い人間もいるので、異色の経歴、変わった転身をした人たちをもっとゲストに招いたらどうか、と提案したのです」 その結果、当初1000人の登録者を目指そうという目標だったが、2023年1月現在、チャンネル登録者数はすでに1500人となっている。自社の人気コンテンツである『トクサンTV』からトクサン、ライパチを出演させたりもしたし、ドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジータさんを招いた回は、なんと再生数が22万回を超えていた。 「自分がメンバーとして活動するNHの事業ももっと外部へ発信するために、NHのYouTubeコンテンツを磨く作業も行っているわけです」 と真摯な面差しで語る。このようにコンテンツ制作を「受託する」、という仕事も今後増えていきそうだとのことだ。 (以下写真:『LifeShift TV』に出演するトクサン、ライパチさん)

熱狂マーケティング

これらの活動の源泉として深井さんの中にあるモチベーションは 「自分たちの作ったもの、自分たちの愛したコンテンツを世に発信していきたい」 という新たな仕事の理想だった。広告マン時代は好き嫌いにかかわらずクライアントから与えられる商材や課題を理解し、解決し、訴求するしかなかったが、いま深井さんが行っているコミュニケーションは、自社のクリエーター達がまず0から1を作り、それを深井さんの培ってきた様々な手法で世に知らしめる、いわば自作自発のビジネス。そこにやりがいを感じるということなのだ。 「まず僕の中にあるのはクリエーターファーストの信念です。彼らがまず0から1を作る。そしてその1を、僕が無限大にしたいと思っています。行った施策によってファンの人たちがこんなに大きく動いてくれるのだと気づくとき、感動しますね。そんなとことに一喜一憂していますよ。これは今までになかった感覚です」 取材の最後に、 ――――深井さんの今の仕事をひと言で表すならどういった言葉になるのでしょうね? と問うと、しばらく考えたのち、 「自社の作品を誰もが知っているコンテンツにすることがまず僕の使命だと思っています。それに向かって、どう言ったらいいのかな、、人々を熱狂させる仕掛けづくりをやっている、、、、‘熱狂マーケティング’とでもいうのでしょうかね、僕の仕事は。これこそがコンテンツの価値の最大化につながると思っているのです。そのためには自分も熱狂せなあかんですね」 と笑いながら答えてくれた。 話を聞いている筆者には、もう十分すぎるほど深井さんの熱狂が伝わっていた。

ライター黒岩秀行