【アカデミー・第二部③:対談】
(第二部②・聴講レポートから続く)
2025.02.19
2024年12月4日、銀座のLSPオフィス会場にて「LSPオープンアカデミー」が開催された。ここではライフシフトに関わる最新の情報や知識を、企業のミドルシニア人財活用にあたる人事担当者・経営層に向けて定期的に発信、交流が図られている。 今回は「“人事ナウ”を知る~従業員のキャリア開発における人事の今すべきこと」をテーマに、二人の講師の方々をお招きし講演が行われた。当日会場には20社以上の企業の担当者が集まり熱気に包まれ、また内容はオンラインで完全公開型セミナーとして放映もされた。 アカデミーは第一部と第二部に分かれ、一部は明治大学専門職大学院教授野田稔教授から「人事における短期的・中期的テーマ」としての講演。二部はリクルートワークス研究所主任研究員・古屋星斗氏を招き野田教授を交えての対談の形で行われた。 野田教授はLSP発足にあたって様々な助言をいただいたLSPのいわば恩師であり、現在はそのスペシャルアドバイザーにも就いていただいている。また古屋氏は野田教授が「人事領域における今最もホットな人」としていの一番で名を挙げた人事領域研究のキーパーソンである。 企業経営の中で最重要課題として取り扱われ始めた「人事」に、今何が起こっているのか。講演はまさにその現在と未来を的確に指し示すものとなった。以下その要約を記す。
(第二部②・聴講レポートから続く)
古屋――私は「キャリコンの高度化」もミッションとして必要だと思っています。今日ここにいらっしゃる皆さんの中にも資格を持っている方が多いと思います。よくキャリコンの資質として「傾聴」が必要だと言いますが、私が思うにこれだけではだめだと思います。悩みをもって相談してくる人には、聞くだけでなくて具体的なサジェストが必要なのです。 まあ「傾聴」しないと資格には受からないですけどね(笑)。 野田――傾聴かぁ、、。僕は絶対に受からないな(笑)。 古屋――悩める人に本質的に必要とされるこの「サジェストする機能」をキャリコンさんに持たせるために「キャリコンの高度職」を作るべきだと私は思っています。社労士だと特定社労士みたいな。キャリコンの場合何を特定するかと言えば、サジェストできるジャンルだと思います。ITとか、宇宙開発とか、AI、ケアワーク、人事でもいいかもしれません。 野田――得意技ですね。 古屋――そうです。例えば「そのスキルセットを持っているならこの会社に行くと良いよ」とか、「その知識があるなら野田教授のところに行ってみると良いよ」とか。あるいは副業先やオンラインラーニングのサジェストなんかができたら、お仕事は殺到すると思うのです。これはCCA※1でも話していることなんですけれどね。 野田――全く同感です。僕もそんなことをCCAでずっと話していますよ。僕は会社に対してOD※2のアドバイスもできないとだめだと言っている。なのでCCAの中にキャリコンのためのOD講座を作ったんですよ。キャリコンの人って本人ばかり見ているんですがそれだけではだめで、まわりも見てあげなくてはいけない。組織に対してアドバイスができるようになる必要があるという話をよくしています。 古屋――全くその通りですね。あともうひとつ社内キャリコンさんの必須の知識として付け加えるなら、社内の使える人事制度を知っておくということですね。例えば社内副業ができる、海外留学ができる、様々なタイミングで受けられる社内の支援制度を誰よりも知っておく、ということだと思います。それを使ってこんな成功例があります、を言える社内キャリコンさんである必要があります。やれることはいっぱいあると思います。 野田――そういう支援があってこそ、先ほど言ったような不安も解消されるのですね。転職意向のあるミドルシニアの不安を解消し、きちんと流動させるためにもちゃんとアドバイスをできるような構造を作っていかなくてはなりません。 司会――会社の経営層やマネジメント層を経験された方こそ、そういった高度キャリコン資格を持ってみたらとてもバリューが高くなる気がしますね。 野田――まさにエグゼクティブコーチングとキャリコンの接点みたいな感じですね。僕の先輩にもそういった知り合いがいます。会社の中でかなり地位の高いところまで行った人なのですが、社長に直訴して社内にコンサルティング室を作り、自ら室長を買ってでた。そういう人であれば安心して相談できますよね。 古屋――「キャリアコンサルタント」じゃなくて、私は「キャリアプランナー」になるべきだと思います。ファイナンシャルプランナーのように家計のこれはこうしましょう、こう変えましょうと提案する。こういう仕事にキャリコンさんを変えなくはいけないと思っているのです。 司会――確かに傾聴だけしているファイナンシャルプランナーは困りますもんね(笑)。 野田――そこまでやったら成果報酬がほしいな。年収が上がったらその3%ください、みたいな(笑) ※1 CCA(Career Counseling Association):特定非営利活動法人キャリアカウンセリング協会 ※2 OD(Organization Development):組織開発
司会――さて今日は中高年の人財活用に意識の高い方々が大勢参加してくださっています。そんな皆さんに今日お持ち帰りいただける、企業側が取るべき今後の打ち手としては、どんなものがあるでしょう? 古屋――そうですね。僕は「活用」ということではないような気がするのです。一人一人がこの瞬間に思っていること、これまで積み重ねてきたことを花開かせるような施策が求められている気がします。 野田――僕が思っているのは「ジョブ開発」です。仕事を作る。 すでにある仕事をミドルシニアと若い人が取り合いしているのが一番不健全です。会社の中には本当はやったほうがいいのだけど、棚ざらしになっている仕事がいっぱいあるものです。それをいつまでも放っておくのではなく、会社のことをよくわかっているミドルシニアの経験値からこうやったほうがいい、と考えて解決していく。部署の垣根なども超えて特例として会社がやらせるといい。コツとしては全部を上から与えるのではなくて、刺激を与えて本人たちに考えてもらう。そして部下をすぐにはつけないでまず一人でやらせることです。そんな仕組みを作っていくのが一番良いと思います。 実際にこれをやった会社もあります。そこでは以前より「インバウンド向けのショールーム」があったらいいね、と皆が言っていたのですが、忙しいからって誰もそれまではやってなかったんですよ。まさに、そんなテーマを見つけてミドルシニアが解決していくわけです。 司会――ミドルシニアは「今のままではだめだ」「あれが足りないこれが足りない」と言われるのがすごく嫌なんです(笑)。お二人のお話を聞いているとそうじゃなくて、これまで経験したことは自分の中にこんなにも豊かにあるのだということですね。足りないのではなくて、「あまりあるものを出せてない」だけなのだということなんですね。 古屋――加点法と減点法の視点でいえば「減点法では30点なんだけど、加点法では3万点」みたいな人を作ってほしいです。こういう評価ができないとミドルシニアの活用は難しいと思います。 野田――AIはわかんないし英語はできないけど、人たらし、みたいなね。そしたら人たらしの方をやればいいわけで。 以前このLSPでもやったのですけれども「Canの統合」というワークショップがあります。子供の時に好きだったり得意だったことと、大人になって仕事で積み重ねてきた知識・経験、人脈などを要素分解して紙に書く。それらの要素を他人に勝手に組み合わせてもらいます。そうすると思いもよらない職種が生まれたりして自分の強みに気づくことがある。そんなようなセッションもミドルシニアに提供してもいいかもしれません。意外に自分の得意技ってわかってないものなんですよ。 古屋――確かに一人ではわからないですからね。外に出たほうがわかりやすいですよね。 司会――(参加者からの質問を受けて)最後に今後の「人事の役割とやりがい」について、お聞かせくださいますか。 野田――昔の人事は、会社の「理不尽」をお砂糖でうまくくるんで糖衣錠のようにして飲ませるような仕事でもあったと思います。でも今はそれが効かなくなっている。人事の方にこれから求められるのは、本当の意味での「正直さ」だと思うのです。ただ正直であることは怖いことなので、楽観性があってある程度胆力のある人でないと務まらないかもしれません。その人の人生を考えた時に、正直に自分の言葉で語れる人が人事に求められています。 司会――野田先生、古屋さん、今日はありがとうございました。 (了)
ライター黒岩秀行