2025.02.17

LSPオープンアカデミー「“人事ナウ”を知る~従業員のキャリア開発における人事の今すべきこと~」第二部②・聴講レポート

2024年12月4日、銀座のLSPオフィス会場にて「LSPオープンアカデミー」が開催された。ここではライフシフトに関わる最新の情報や知識を、企業のミドルシニア人財活用にあたる人事担当者・経営層に向けて定期的に発信、交流が図られている。 今回は「“人事ナウ”を知る~従業員のキャリア開発における人事の今すべきこと」をテーマに、二人の講師の方々をお招きし講演が行われた。当日会場には20社以上の企業の担当者が集まり熱気に包まれ、また内容はオンラインで完全公開型セミナーとして放映もされた。 アカデミーは第一部と第二部に分かれ、一部は明治大学専門職大学院教授野田稔教授から「人事における短期的・中期的テーマ」としての講演。二部はリクルートワークス研究所主任研究員・古屋星斗氏を招き野田教授を交えての対談の形で行われた。 野田教授はLSP発足にあたって様々な助言をいただいたLSPのいわば恩師であり、現在はそのスペシャルアドバイザーにも就いていただいている。また古屋氏は野田教授が「人事領域における今最もホットな人」としていの一番で名を挙げた人事領域研究のキーパーソンである。 企業経営の中で最重要課題として取り扱われ始めた「人事」に、今何が起こっているのか。講演はまさにその現在と未来を的確に指し示すものとなった。以下その要約を記す。

【アカデミー・第二部②:対談】

(第二部①・聴講レポートから続く)

理由を言語化する

野田――古屋さんありがとうございました。 先ほど一部で話したマツダさんの組織風土改革でもまさにこの「なぜあなたは会社を辞めないのか」の部分にすごく焦点をあてていて、「なぜあなたは今の仕事をしていますか?」の問いをお互いに投げ合ってワークショップをしているそうです。 最初は照れくさくて「お給料のためです」とか答えるんだそうですけど、恥ずかしさがだんだん取れてくると「(マツダが)好きなんです」という答えが出てくる。 面白いのは言語化させると、より「好き」になるんですよね。 ある総合商社で入社3年以内での離職率を調べた時のことですが、実に20%くらいの人が当時辞めていた。でもその理由を聞いてみるとあまりはっきりしたことを言わないのです。彼らに理由を聞くと「うちの会社さあ」とかいろいろ話し始めはするのですけど、まだ入社間もないわけですから会社の半径5mくらいのことしか知らないわけですよ。 それじゃもったいないということで相談を受けまして。僕がやったのは「入社案内パンフレット作り研修」というものでした。入社案内パンフレットだから自分の部署だけでなく、他のいろんな部署にインタビューをしに行くわけです。4,5人のチームを組んでね。まあインタビュー先にはきちんと優秀な人をリスト化して配置しておくわけですけれど、そうするとその人たちが仕事のそれぞれの面白さを伝えてくれるのですよ。 そしてその後、外部のDTPやコピーライティングの専門家の助けも借りてちゃんとしたパンフレットに作り上げて、今度はそれを持って大学のキャンパスリクルートにメンバーたちを送り出すわけです。そうすると彼らは自分たちの言葉で自分の会社の良さを話すわけです。それが全て自分の頭にフィードバックされる。そうやって実際に会社に応募してきた学生がいると、今度は彼らから人事に「この学生をぜひ採用してやってください」とか言ってくるんですよ。さらには就職してからずっとその社員のメンターをやるようになったりする。 このように何のためにこの会社にいるのかということを、言語化してしゃべってみるってことは有効なのかもしれません。 司会――LSPにおいてもキャリアデザインワークショップというものをやっています。今のお話を聞いて「今やっている仕事は何ですか?」を単純に聞くだけでなく、「本当にやりたい仕事」を探れるような「言語化」ワークができれば、仕事観も広がってくると思いました。

「不安」をどう解消するか

野田――ところで、ミドルシニアの転職意向が高い、「しがみつき」のイメージは過去のもの、という話に少し驚いたのですが転職したい理由というのは何なのでしょうね? 古屋――ひとつはライフイベントのことがあると思います。ただもうひとつは彼らは「就職氷河期世代」の人たちなのですよね。もともと待遇があまり良くなかったという背景もあるのではないかと。あとは人事制度の問題もあると思います。賃金上昇が抑制的になってきて長く会社にいることのうまみもなくなってきています。ただ重要なのは結果としてそういう人が動くことで、外部労働市場が成立してきたということだと思います。 司会――私もまさに氷河期世代の人間です。今、我々世代がちょうど経営層の手となり足となり頑張ってきて、いよいよ自分たちが経営層になるのかな、、、と思う時期。でも実際は一個下の世代に若返ったりする。なんだか飛ばされてしまう感覚がありますね(笑)。 野田――最後まで「氷河」だね(笑)。 司会――いっぽうで氷河期世代の1973年生まれの私の同級生は209万人ぐらいいるんです。2023年生まれが72、3万人です。3倍多いこの我々世代が「しがみつき」や消極的に会社にいるようになると、社会に悪影響を及ぼしますよね。 企業の打ち手として、この世代をどう活性化していったらいいのでしょう。 野田――労働の需要についても供給についても、今人財が偏在化しているのですよね。本当はもっとうまくマッチングできるのだけれど、流動化してないから方円の器にはまっていかないのです。ですから一度外に出てみると、意外とあなたの価値がわかるよ、ということを僕はよく言います。ボランティアでもいいし、プロボノでもいいし、社会人大学院などで本気で学ぶ、ということでもいい。いきなり会社を辞めるのが不安な人の予行演習にもなります。自分の会社と違う人たちと接することで自分の価値を再発見できたりするのです。 司会――そこにこのLSPも入るといいですね。 野田――そうですね。日本人は遺伝学的にも不安感を持ちやすい国民だそうで、なかなか一歩が踏み出せない。だから、不安をどうやって解消するかが施策的には非常に重要です。 ちなみに「不安」という状態を正確に定義するとどういうことかわかりますか?「対象が具体的でない恐れの感情」なんです。ということは「対象を具体化」すれば不安は課題に変わります。幽霊の正体見たり枯れ尾花ってやつです。自分が不安な感情を紙に書いてみるといいと思います。で、人に見せてみるといい。おそらく「なぜこんなことが不安なの?」などと言われます。そうして不安は課題に変わりますから、あとは課題を解決すればいいわけです。 いきなり会社を辞めるのは怖いなら自動車の仮免許のように、一度外に出てみること。これが大切だと思います。 古屋――年齢や地位が上がれば上がるほど、不安を開示しづらくなりますよね。そういう人たちは若手からは会社に全身全霊ささげている人だと思われている。そんな人いるわけがないのですけれどね。アメリカだとエグクゼクティブコーチングなどありますが、マネージャー向けのそんなサービスが今後日本でも必要になると思います。 野田――不安を、聞いてあげるだけでいいと思います。しゃべっているうちに自分で答えが見えてくる。患者中心療法(クライアント・センタード・セラピー)の考え方ですね。 古屋――越境空間の価値はここにもあると思うのです。社内の人に言うと人事的にまずいとか格好悪いとかありますが、そういったところでは不安を開示しやすくなる。 司会――このLSPにも参加していただいているある人事畑の方が、社内でもキャリア研修というのはあったと言うのです。ただ周りを見たら同僚か、先輩か、後輩で、その中で「自分はこういう人生を送りたい」とかは、なかなか言えないそうです。でもLSPのような異業種で、同年代の人が集まる中ではそれが言いやすいとおっしゃる。 野田――心理的安全性の担保といった「弱みを見せられる環境」を作ることの有効性は研究でも明らかになっています。会社の風土改革は必要だし、会社の中で話を聞いてくれるキャリコンのような人を用意してあげるのも地道だけど重要なことだと思います。 (第二部③・聴講レポートへ続く)

ライター黒岩秀行