2025.02.14

LSPオープンアカデミー「“人事ナウ”を知る~従業員のキャリア開発における人事の今すべきこと~」第二部①・聴講レポート

2024年12月4日、銀座のLSPオフィス会場にて「LSPオープンアカデミー」が開催された。ここではライフシフトに関わる最新の情報や知識を、企業のミドルシニア人財活用にあたる人事担当者・経営層に向けて定期的に発信、交流が図られている。 今回は「“人事ナウ”を知る~従業員のキャリア開発における人事の今すべきこと」をテーマに、二人の講師の方々をお招きし講演が行われた。当日会場には20社以上の企業の担当者が集まり熱気に包まれ、また内容はオンラインで完全公開型セミナーとして放映もされた。 アカデミーは第一部と第二部に分かれ、一部は明治大学専門職大学院教授野田稔教授から「人事における短期的・中期的テーマ」としての講演。二部はリクルートワークス研究所主任研究員・古屋星斗氏を招き野田教授を交えての対談の形で行われた。 野田教授はLSP発足にあたって様々な助言をいただいたLSPのいわば恩師であり、現在はそのスペシャルアドバイザーにも就いていただいている。また古屋氏は野田教授が「人事領域における今最もホットな人」としていの一番で名を挙げた人事領域研究のキーパーソンである。 企業経営の中で最重要課題として取り扱われ始めた「人事」に、今何が起こっているのか。講演はまさにその現在と未来を的確に指し示すものとなった。以下その要約を記す。

【アカデミー・第二部①:対談】

(第一部・聴講レポートから続く。野田教授が講演を終えて古屋氏も登壇。司会はNH代表・野澤友宏氏)

あなたは、なぜ会社を辞めないんですか?

司会――古屋さん改めてよろしくお願いします。 古屋――よろしくお願いします。労働市場の研究や若手のキャリアの研究などをしています、古屋と申します。 では最初に私から少しお話させていただきます。昨今人財が取りあいの状況となっている中で、企業の人事戦略は何をKPIとすればいいのか?今日はそんな問いかけを皆さんにしたいと思っています。 今、離職する人が増えています。しかも働き方改革を頑張ってきた大企業ほど離職率が上がってきていて、大卒3年未満離職率は過去最高値を更新しています。 これまで離職率増加に影響のあるファクターは「残業時間の長さ」や「有給休暇の取りにくさ」でした。でもこの5年間位でこの2つのファクターは会社において劇的に改善してきている。でも早期離職率は下がらない状況が生まれているのです。 これにはいろいろな理由はあると思うのですけれど、若い人にとって職業人生の「選択」の回数が増えてしまった、ということがあると思います。「キャリア不安」に直面せざるを得ない状況が生まれてしまったのです。 これまではリンダ・グラットンが著書『LIFE SHIFT』の中で言っていたように「学校→仕事→引退」の3ステージ人生だった。つまり選択のタイミングは「就活」と「セカンドキャリア設計」の2ステップしかなかった。この2つの大きなタイミングを外しさえしなければ幸せな人生が送れていたのです。でも今は選択肢がそれ以外に大変増えています。 私は「人生5大キャリアイベント」と呼んでいるのですけれど、今の人たちは「転職」「副業・兼業」「体系的な学び直し」「家族の介護」「子の出生」などのイベントに接触します。手元のデータでいろいろ集計をしてみると、特に「転職」は29歳までの日本の社会人の約5割が経験をしている。「副業・兼業」も若い人ほど実施率が高まっていて20代で14%。希望率は36.8%。「体系的な学び直し」も同様に若い人の実施率が高まっていて20代で18.3%です。あとは「家族の介護」や「子の出生」といったライフイベントもあります。合わせるとこの5つの1つにも接触しない29歳までの日本の社会人は、もはや3割くらいしかいないのです。 「転職」については若い人たちの話に限りません。実は直近で転職希望者が一番増えているのは45歳~54歳の方々なのです。この5年ほどで転職希望率が12%から18%に激増していて世代間の差がなくなってきている。日本の転職希望者は2023年に1000万人を超えたのですがそのトリガーとなったのはまさにこの世代の人たちです。若い層の人たちから見れば、その歳になっても転職をする時代になったのだ、と思うわけです。 野田――その年代の人たちは会社にしがみついているのかと思っていたけど、違うのですね。 古屋――そうですね。これにはいろいろな理由があると思うのですけれど例えば「親の介護」のようなライフイベントの問題です。これを機に地元へ帰ることを考える。あるいは今様々な人事制度が確立されてきている中、改めてキャリアを考えようという人たちが出てきている。人材マッチング市場が形成されてきているのも背景にあると思います。大きな労働市場の転換点になってきているのは間違いありません。 結果として何が起こったか。「外部労働市場の成立」です。この成立には何が必要かというと「転職によって賃金が上がること」です。 これまでは転職によってずっと賃金が下がっていた。賃金が下がるなら、当然内部労働市場で失敗した人しか転職しないですよね。 野田――社内でどうにもならない人が、仕方なくて外に出ていたということですね。 古屋――おっしゃる通りです。でも今は変わっているのです。40代であっても転職して年収が10%以上あがる人のほうが多くなっている。20代、30代、実に50代においても同様です。これがここ数年でおきた日本の外部労働市場の成立、転職希望者が増えた要因なのです。 野田――これまでのミドルシニア転職のイメージが変わってきたということですね。 古谷――はい。優秀な人ほど会社を辞めるということだと思います。 そこでこういう問いかけが出てくるわけです。賃金が上がるのに「あなたは、なぜ会社を辞めないんですか?」これを考えざるを得なくなるのです。 野田――うーん。昔は「なぜ会社を辞めるの?」って聞かれたものですよね。僕の場合、唯一ある人に「なぜ辞めないの?」って言われ続けていたことがあって。。。でも実際に辞めると「うわーっ、もったいない!」とか言われたりしてね(笑)。 古屋――(笑)逆に会社に対しても、社員の定着の問題を考えた時に「辞めさせないことが最終目的なの?」という問いかけが生まれてくるわけです。定着率をKPIにしてしまうと、「消極的在職」意向の人たちを見過ごしてしまいます。つまりいわゆる「しがみつき人材」になっているかもしれない人たちです。こういう人たちを増やしたいですか?という話です。

私がこの問題に対して申し上げたいことは一点で「在職する理由の深化」をさせることなんです。「あなたはなぜこの仕事を辞めないのか?」を従業員に問うて、それに対してどういう回答が返ってくるかです。 実はそれには「可視の要素」と「不可視の要素」という軸があることがわかっています。ある会社と共同で研究したのですが、入社時点でその会社を選んだ際の重視点が「不可視の要素」だった場合、早期離職意向が低下する傾向があるのです。「可視の要素」とは何かというと、わかりやすいのは給料ですね。あと休暇の多さ、育休の取りやすさ、会社の規模、就職偏差値とかです。 野田――表面的なものということですね。 古屋――はい。いっぽう「不可視の要素」とは仕事自体の魅力とか、一緒に働く人がどんな人なのか、組織文化、風土といったものです。こちらの要素を多く持った人々は、半年後のストレス反応が抑制される、あるいは離職意向が低下する傾向があると言われています。 いずれにせよ「選択の時代」の組織づくりの最終目標は「なぜあなたは、その会社を辞めないのか?」を聞かれた時に、自分とまわりの人が納得する答えができるよう、その瞬間をプロデュースすることだと思います。これこそが今後のHR、あるいは経営者に求められる最大のお仕事なのじゃないかと思います。 最後になりますが私が今日ここにいる皆さんに問いかけたいのは、 ① 現在、皆様の会社に入社する理由、在職する理由にどんなものがあると考えられますか? ② その「理由」を、これからどんなものにしていきたいですか? ③ その「理由」をより多くの社員が感じるために、組織でどんな打ち手が可能ですか? です。 (第二部②・聴講レポートへ続く)

ライター黒岩秀行