ニューホライズンコレクティブ(NH)のメンバー・岸貴義さんは様々な肩書を持っている。自身が立ち上げた株式会社キスオブライフ代表取締役をはじめ、株式会社フォーステック取締役CMO、エアモビリティ株式会社戦略プロデューサー、ハチケンエージェント主任動物取扱責任者など。その領域も出自である広告関連事業にとどまらず、環境社会基盤の構築、空飛ぶクルマ社会のインフラ整備、ベンチャー企業への投資、はたまた小型犬の繁殖販売、などと多岐にわたる。2020年に電通を早期退職しNHメンバーとなって約3年。精力的に活動範囲を広げていく岸さんの仕事に対する考え方、今後のビジョンを知りたくて取材を申し込んだ。そこにあったのは独自の人生観と、領域を跨ぐ「多動力」の実践だった。
株式会社キスオブライフ / エアモビリティ株式会社 / 株式会社フォーステック
代表取締役CEO、戦略プロデューサー、動物取扱責任者
岸貴義
岸貴義さんのプロフィール:
1992年株式会社電通入社、ほぼ一貫して営業畑を歩き、2020年退社、電通時代にはHonda・武田薬品・アシックスなど幅広い業界のクライアントやオリンピック・F1など国際的なスポーツイベントをビジネスプロデューサーとして担当。中国・東南アジア・中東・欧州など海外における広告プロデュース経験も豊富。事業企画から製品サービス開発、マーケティングプランニングからクリエイティブアウトプットまで、川上から川下すべての領域における提案型のプロデュースを得意とする。
スマートなゴミ箱
岸さんの仕事の一端を筆者が知るきっかけになったのは、IoTでゴミの状況を管理する「SmaGO」の販売に携わっていることを知った時だ。
SmaGOとは観光地や商業地などの街頭に設置することを前提に作られた太陽光で動く電源いらずのゴミ箱。ゴミが溜まると自動的に内部で圧縮。通常よりおよそ5倍の量のゴミを収容できるというものである。しかもゴミが満杯になる前に管理事業者に通知する通信システムを備えており回収費などの効率化が図れ、更には筐体を広告スペースとして活用できるので運用管理者にかかるコストの相殺ができるというとてもスマートなゴミ箱なのだ。どういった経緯で事業に参画することになったのだろう。
「創業者の株式会社フォーステック社長の竹村さんは、もともと飲み仲間でして・笑。話を聞いてとても面白い取り組みだと思ったのです。SmaGOは‘Smart Action on the GO’という会社の理念がそのまま名前になったもので、製品自体も面白いんですけれど、実は海洋ごみ問題の解決の一翼を担うために普及させたいと思っている製品なんです。日本って街にゴミ箱がとても少ないんですよね。結局そこに入らなかったポイ捨てゴミが、下水道・川をつたって海に流れ込んでいる。じつは海洋ゴミの7~8割は街で捨てられているものなんですよ。それをこの製品で街なかから解決しようという考えに共鳴したんです。前職時代のノウハウも活かせると思いました。で、退職を機に本格的に事業に参画しました」
インバウンド需要が復活してきている昨今。オーバーツーリズムという名のもとに各観光地ではごみの処理に対する課題が様々にクローズアップされてきており、各自治体や企業から毎日のように問い合わせがあるそうだ。設置が実現するたびマスコミからの取材もあり、広報メディア担当も兼ねる岸さんは多忙を極めている。
2020年に設置した原宿表参道を皮切りに、大阪、名古屋、京都、神戸、広島、札幌など大都市圏を中心に、現在、25自治体、200台ほどの導入がすでに実現されているそうだが、
「まずは日本での適切な数のSmaGOの普及を目指しますが、来年からはアジア各国へも販売していく計画があり準備を進めているところです」
と次を見据える。
もともとベンチャーとして始まったこのフォーステックの事業、岸さんは単に役員として運営参画するだけではなく自ら出資もしている。
「前の会社の退職金のかなりの部分、こういったベンチャー出資に使ってしまいました・笑。でもこうして出資だけではなく自分も経営に携わることで会社の価値を高めていければ、ベストだと思っています」
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空飛ぶクルマ
岸さんが「ベンチャー出資」を行ったもうひとつの事業も紹介しよう。来るべき空飛ぶクルマ社会のインフラ作りなどを手掛けるエアモビリティ株式会社だ。岸さんは戦略プロデューサーとして業務にあたっている。
「これも僕の後輩から社長の浅井さんを紹介されて意気投合したのがきっかけでして。一緒にやらないかとお誘いを受けたんです」
空飛ぶクルマについては筆者も耳にしたことはあるが、現時点でどの程度の実用化の見通しが立っていて今後どのような形で普及していくのだろう。
「最初に来るのは災害時の緊急移動ツールとしての需要だと思います。現在のドクターヘリは着陸する場所を選ぶしコストもかかり操縦士の数も減ってきています。それに対し空飛ぶクルマはヘリコプターにドローンの良さを掛け合わせたようなもので、垂直離発着ができ基本的に電動、将来的には完全自動運転ができるようになる。ですのでプログラミングだけすれば操縦技術を持たないお医者さんと看護師を乗せてピンポイントで事故現場に降りていけるようになるのです。あとは観光地での周遊、日本に数多くある離島間の物流や人の移動ツールとしての利用ですね」
と岸さんの解説は明晰だ。エアモビリティ社は空におけるナビゲーションシステムの開発を進めながら機体メーカーや自治体とも連携。離着陸場のシステム開発などを含め空飛ぶクルマのインフラ整備にまい進している。
「ただ、今はまだ空飛ぶクルマはマネタイズのところまで行けていないので、ドローンの輸入ビジネスもやっているんですよ。海外からは軍事用などにも使われる大型ドローンを輸入して、物流会社さんとか土木系の会社さんとかに販売するんです。あとはですね、海外では人気になってきているドローンレースを日本で実現させようとする企画もあります。具体的な県名は明かせませんが産業育成や地元活性化にドローンビジネスを活用することに非常に前向きで、こういったイベントを我々と前向きに検討してくれている自治体もあります」
と構想は膨らむばかりである。
森林火災問題
ここまで書いてまだ岸さんが自ら立ち上げ、代表取締役を務める株式会社キスオブライフ(KOL)の話をしていないことに気づく。氏のいわゆる本籍地であると言ってよいだろう。広告制作プロデュースと事業コンサルティングの会社であり、これこそ広告業界でこれまで培ってきたってきたノウハウと人脈を結晶させ作られた会社である。現在計9名の脂の乗り切ったクリエーターと業務委託契約を結んでおり、プロジェクトごとに必要なメンバーを集めて作業にあたるという。
ただこの会社の領域も決して型にはまるものではない。クライアントのブランドコンサルや、広告制作は軽やかにこなしつつ、自ら開発した化粧水の販売プロデュース(KOLの共同経営者の野崎さんが国際的に活動するビューティクリエーターである経緯)、受注繁殖型の小型犬の仔犬販売および関連商品の販売(岸さんの実家が警察犬訓練学校であることがきっかけ)、更にある消火剤商品のアメリカへの輸出ビジネスも手掛け始めたというから驚く。
「これもアメリカでビジネスをしている仲間からの相談で始めたのですけれどね。今世界中で森林火災が問題になっていまして、その仲間の住むカリフォルニア州は特に深刻なんです。これをなんとかできないかという話で、たまたま僕が聞きかじっていたシャボン玉石鹸さんの泡消火剤のことを思い出したんです。これまでの消火剤って火は消せるのですけれど有害物質がそのあと土地に付着したりして訴訟問題になったりしているのですよ。でもこのシャボン玉石鹸さんの消火剤は完全な無害なんです。かつ水の使用量も従来の15分の1くらいですむという優れもので」
――でどうされたのですか?
「シャボン玉石鹸さんのお客様相談窓口にメールで問い合わせすることから始めました・笑」
全くツテのないところから飛び込みでメールを送ったという。
岸さんの実家がたまたまシャボン玉石鹸の本社がある北九州市若松区だったこともあって、とても親近感のもてた会社だったこともあるそうだが、その行動力には舌を巻く。そして今やカリフォルニア州を基点とする消防団の方々との面談も終え、この消火剤を導入する契約をKOLが受託したところだという。本人は事業コンサル領域の一環だと言うが、業務としてはまさに商社の動きとなる。ここにも領域にとらわれない岸さん仕様のビジネスが実現したのである。
越境力と多動力
海洋ごみを減らすために、空飛ぶクルマ社会の実現のために、そして森林火災の切り札提供に、、、。縦横無尽に飛び回る岸さんの見つめる先には、多様な明日が拓けている。そのバイタリティの中核となる独自の思想を最後に聞かせてもらった。
「僕はですね、趣味と実益、友達とビジネス関係、遊びも仕事も、全く境界線がないんですよ。実家ともビジネスをやるし、彼らからも仕事を紹介してもらう。もちろん前の会社で出会った仲間、友達とも仕事するからSmaGOや空飛ぶクルマのような仕事も発生する。もともと公私を分けるという感覚がサラリーマン時代からなかったほうなんですよね。それが独立して更に加速している感じです・笑」
たしかに話を聞いていると上記した事業の多くは仕事仲間や友人、あるいは家族の関係性を基点に起動し始めたものだ。ただそれは彼らの発するひと言ひと言に真摯に向き合っているからこそ掬い上げられる事業の萌芽なのであろう。
またこれほど多くの仕事を並行して行うことについて、岸さんは「多動力」という言葉を引用する。
「もともといろんなことを同時多発的に動かすことは得意だったんです。でも独立した今はそれがリスクヘッジにもなるんですよ。ご存じのように大きな会社を辞めて大きな保険のようなものはなくなったのですが、複数に張ることで今はそれが保険にもなる。そのことで多くの人にも出会えるのでそれも楽しい。この多動力をもっともっと元気なうちにやっておきたいと思うのです」
KOLのホームページを改めて見ると「業界を軽やかに超えていく越境力」というキャッチフレーズが目に飛び込んでくる。まさにこの言葉のままに岸さんは躍動し続ける。
「よくワークライフバランスっていうじゃないですか。あれよくわからないんです。僕の場合ワークもライフも全部一緒なんで」
と楽しそうに笑う。様々な価値観、仕事の仕方が良くも悪くも取り沙汰されている昨今、氏の屈託のない言葉がつるりと心に刺さってくる。Kiss Of Lifeという会社名は、そのように生きていく社長の人生そのものであり、また共に仕事をする人々への祝福そのものなのであろう。