山梨県「豊かさ共創フォーラム」の推進

山梨県の長崎知事が提唱する豊かさ共創社会の実現に向けての取り組みの一つである「豊かさ共創フォーラム」は、スリーアップ循環と銘打ち、働き手のスキルアップが企業に生産性向上と収益をもたらし、その成果を賃上げにより働き手に還元するという好循環サイクルの実現を目指して設立するリスキリング推進拠点である「やまなしキャリアアップ・ユニバーシティ」の運営方針を決定する機関である。この豊かさ共創フォーラムのグランドデザインを手掛け、事務局運営に伴走しているのが山同真さん・村松正基さん・江尻敬さんのニューホライズンコレクティブ(NH)のメンバーである。

(株)エスアンドオー
プロデューサー、プロジェクト・マネジャー

山同真

山同真さんのプロフィール:
課題解決策の編集家。「なんとかする」プロデューサー。可能性に火を灯すトーチ師。次代の人と事業の価値を発掘し伸ばす、株式会社エスアンドオー代表取締役。慶應義塾高等学校/慶應義塾大学を卒業後、1988年、株式会社電通入社。マーケティング戦略プランニング、人事制度設計、ビジネスプロデュース、人財成長戦略設計などの経験を経て2020年「人と事業の価値発見と成長支援」を生業にする、株式会社エスアンドオーを創立。高校/大学と、体育会アメリカンフットボール部に所属。高校3年生時、主将としてチームを率い高校日本一を経験。

「豊かさ共創フォーラム」は山梨県の知事政策局による公示案件である。名前の通り知事主導の特命的なプロジェクトを庁内横断で取り組む部局からの公示だったのである。この公示に対して山同さんたちNHチームが考えたことは、この施策が絵に描いた餅で終わらないためには単に受け皿であるリスキリング推進拠点の設置計画の提案を行うだけではなく、そこに参加してもらう人たち、つまり県内企業などがより積極的にコミットしようと考える枠組みを構築する必要性を提案に落とし込むということだった。 端的に言えば、県発の取り組みへの県内企業への参画を促すのに際し、社の将来を担うことが期待される優秀な社員に社業の時間を割いてでも参加させてもらえるような取り組みにすることで初めて豊かさ共創フォーラムが魂の入ったプロジェクトになるという考え方である。 従って、NH案の肝は、いかにして県内企業の経営者などの意思決定権を持つ人たちにこのプロジェクトの価値を理解してもらい、形式的ではなく能動的に参加しようという意欲を喚起することができるかにあったのである。 そのために、県内企業の大半を占める中小企業が独自に実施することは難しい内容の濃い研修プログラムと共に、参加者同士の交流などを通じた新たな実利をもたらすネットワークやマッチングが成立し、より大きなチームが有機的に形成されて成功事案が構築されていく。そしてその成功事案が県内企業の更なる参加意欲を掻き立てるという発展的なモデルを提案の核としたのである。

この提案が採用され、スリーアップ循環の実現に繋がる第一歩となるのが「やまなしキャリアアップ・ユニバーシティ」の設置である。「やまなしキャリアアップ・ユニバーシティ」は2024年1月に立ち上がり、テストプログラムの実施などを経て2024年4月から本格稼働する予定である。 山同さんたちNHチームが描く豊かさ共創フォーラムのグランドデザインにおいて「やまなしキャリアアップ・ユニバーシティ」の設置はプロジェクトの完結を意味するものではなく、むしろスタートラインである。「やまなしキャリアアップ・ユニバーシティ」が担うべき機能は単にスキルや知識を身に着けるための研修機会の場だけではない。より重要なミッションは異業種・多様な人たちが交わることで交流が広がり、新たなネットワークやマッチングが成立することで新しいイノベーションやビジネスが生まれる拠点となることである。そこでNHチームが次に手掛けるのは参加者同士の交流の推進策である。参加者同士のより能動的な交流を生むための場所や機会といった環境を整えることで新たなネットワークやマッチングの促進に繋げ、それによって新たなビジネスがうまれることが県内企業の参加意欲を更に高めるポイントとなる。そしてそれこそがスリーアップ循環の実現に繋がるグランドデザインの次のステップとなるのである。

同時に、山同さんがNHとしてこの案件を推進することのもう一つの意義と考えていることが、こうしたグランドデザイン策定を通じた持続性とノウハウの構築である。 山梨県の目指す豊かさ共創社会を実現するためには企業の競争力強化のみでは十分とは言えない。経済力を強化できる現役世代の県民が住み良い場として豊かさを実感し、更に他都道府県からの移住希望者が増加するためには、教育環境と生活環境も含めた三位一体での充実が不可欠である。 三位一体の第一歩であるスリーアップ循環による経済力の強化のグランドデザインに関わることで、NHはこの先も豊かさ共創社会の実現に向けての山梨県知事政策局の更なる取り組みやそれに関わる多様なステークホルダーとのネットワークを活用した新たなビジネスの開発を目指すことができる。

また、県民の豊かさを高めたいと考える都道府県は山梨県のみではない。 そして山梨県の豊かさ共創社会の実現のためのグランドデザインは決して他都道府県の富を奪うものではなく、山梨県内のポテンシャルを具現化しようとする取り組みである。 従って山梨県での豊かさ共創フォーラムのグランドデザインをはじめとする取り組みを通じたノウハウは他の都道府県においても有効に活用できるNHの知見となるのである。 山梨県のポテンシャルを具現化することによる発展、そしてこのモデルを活用した日本中の活性化の実現。そのエンジンとなることでNHによる社会貢献を実現する。豊かさ共創フォーラムのグランドデザインを描くその先には山同さんたちNHメンバーによる大きな志が滾っているのである。

<山同 真(さんどう しん)さん> 慶應義塾大学法学部を卒業後、1988年4月、株式会社電通に新卒入社。 電通在職時は、顧客の事業戦略プランニング/ビジネスプロデュース/プロモーションデザイン、 自社の人事・人財戦略の設計などに従事。 2020年12月末、電通独自の『Life Shift Platform』スターティングメンバーとして電通を退社。 電通退社後。株式会社エスアンドオーを設立。 『次代を拓く「人」と「事業」の価値を発見し伸ばす』をビジョンに、電通時代の ビジネスプロデュース/人財戦略設計の経験を活かしながら、未来を拓く人財の育成・成長支援と世の中を良くする事業・企業の成長支援を開始。 人財成長支援では「前例のない世の中に、自身の人生を主体性を持って生きられる人」 を育んでいくことをテーマに小学生から社会人までの育成事業に取り組む。 事業成長支援では「価値とは、創造するものではなく発見するもの」を信念に、当該事業や企業の『社会価値』を内部に発見し、成長の仕組み化に取り組んでいる。

ライター河合 洋一