デザインでできる配慮とは何か?

ここ数年、SDGsを筆頭にダイバーシティ、インクルージョン、LGBTQ、多様性などの言葉が社会に溢れている。年齢や性別はもちろん、国籍や宗教、障がいの有無、性的マイノリティにいたるまで、様々な立場の違いを考慮し、その違いを活かした社会作りをしようと社会や会社が変わっていることを実感させられる。実際に社会の中でどんな人も活躍できるような社会にしていくには、差別や理解などの心理的なハードルだけではなく、言葉や文化などソフトウェアのハードル、さらに肉体的なハードルに対応したインフラの整備など実に様々なハードルがある。NH のメンバーにもこのようなダイバーシティに対してライフワークのように取り組んでいる人がいる。それが今回ご紹介する田代浩史さんだ。

田代デザインスタジオ
グラフィックデザイン、ユニバーサルデザイン

田代浩史

田代浩史さんのプロフィール:
グラフィックデザインとユニバーサルデザインが専門です。「あなたがいるから私が活きる。違いがあるから新しい何かが生まれる。デザインの届き難いところにこそ、豊かさへのヒントがある。」そんなコンセプトでやっていきます。ダイバーシティ、人権、環境など、社会課題の解決を少しでもお手伝いできれば嬉しい。●IAUD国際デザイン賞2021 コミュニケーションデザイン部門 銀賞「見やすいコロナ対策ピクト」https://www.iaud.net/award/17962/#s-07

田代さんは電通時代から電通ダイバーシティラボ に所属し、アートディレクター、クリエーティブディレクターとして、広告から始まりあらゆるコミュニケーションの場において、様々な人たちが情報に接する際に起こる不便さをデザインの力で解決してきた。今回は、田代さんがこれまで行ってきた、様々なデザイン的な配慮がどのように作られてきたのか?を見ていきたいと思う。 そもそもこういったことをライフワークにするきっかけは、今から10年以上前にユニバーサルデザインに触れたことがきっかけだったという。ユニバーサルデザインとは、それまでは社会的には、「バリアフリー」という考え方が叫ばれていた。ユニバーサルデザインとバリアフリーはなんとなく混同して考えがちだが、そもそもバリアフリーは今あるバリアをなくすことから始まっているが、ユニバーサルデザインは、予め、そのことを配慮しデザインする、という考え方である。このユニバーサルデザインには七つの原則があるという。 ユニバーサルデザイン 7原則 ① 誰でも公平に利用できること ② 使い方に柔軟性があること ③ シンプルかつ直感的に利用できること ④ 必要な情報がすぐにわかること ⑤ ミスをしても危険が起こらない安全性があること ⑥ 体への負担が少なく利用できること ⑦ 十分な大きさや広さが確保されていること これらの原則に則し、グフィックデザインで電通時代に手がけられ、最初に形になったのが誰もが見やすい書体の開発である。より多くの人が読みやすい文字とはどんな文字だろうか?例えば、文字を小さくしても潰れにくく、読みやすいこと。1やlやIなど形の識別が難しい文字がよりわかりやすいこと、そんな細かな工夫されたフォントを開発した。 (写真 みんなの文字より)

これは2012年に「みんなの文字」 としてリリースされ今でも多くの企業などで使われている。 そこからさらに色覚に対する感じ方が異なる人たちが苦手とする色の識別に配慮したカラーユニバーサルデザインなどに取り組んでいる。 例えば、成田国際空港のフロアガイド、これまでのデザインでは、赤や緑など特定の色の識別が難しい方々にとっては、それぞれのガイドの色の違いが分かりにくかったがカラーマネージメントを行い、そのような方々でもはっきり識別できるような色に変更した。(写真 成田空港フロアガイド 改訂前後)

実際に、色覚の感じ方がどのように違うのか?がシミュレーションできるソフトウェアなどもあり、そういったものを活用し、デザインの中に取り入れていく企業も増えている。空港といった世界中の方々が使う場所では、特に国際標準が求められてくる。写真を見て貰えばわかる通り、以前のものに比べ、新たに作られたものは、さまざまなところで配慮が見られる。 またアレルギーを持つ子供たちが増える中、わかりやすく小さく表示されても見やすい食物アレルギーの表示を実現するため 「みんなのピクト」 などを開発し文字に頼らないコミュニケーションを推進し、メーカーなどにも協力を求めている。 (写真 みんなピクト)

田代さんは、こう言った取り組みを10年以上前から行なっているのである。いまでこそ様々なところで叫ばれ採用していく企業も増えている。今後インバウンドで多くの外国人が来る日本という場所では、企業だけでなく自治体なども含め官民一帯となって世界レベルになっていくことが求められていくだろう。このような取り組みはバラバラに行われるのでは意味がない。できれば、世界共通で、少なくとも日本では、みんなが足並みを揃えることに意味がある。そういう意味では、まだまだ道のりは長い。そして  コロナなど世界的な規模で新たな問題が起こった場合でも、それらを誰が見てもわかる形で理解してもらうことが必要な場面が出てくる。電通ダイバーシティラボと一緒に見やすい「コロナ対策ピクト」 の開発などはそのいい例だ。新たな問題や新たな考え方が出てくるたびに、それに即したみんなにわかりやすいコミュニケーションの仕方を作っていかなくてはいけない。コミュニケーションにおける配慮にゴールはない。最後に田代さんが語っていた「大きなお金にはならずとも大きな社会的な意義になれば、と。」という言葉にこのデザインで配慮することの力を感じた。

取材/文あかぎ よう