三方よしの聖地へ。企業向け研修もできる宿泊施設「NIPPONIA 五個荘 近江商人の町」

今回ご紹介するのは、滋賀県東近江市に2022年9月1日に開業した「NIPPONIA 五個荘 近江商人の町」の<施設コンセプト策定>のお仕事。NHの廣瀬さんが取り組んだプロジェクトについてご紹介させていただきます。


コーディネーター、「稽古」普及士

廣瀬誠

廣瀬誠さんのプロフィール:
人口の集中している都心部ではない「地域のヒト・モノ・コト」を、「どこかの誰かやどこかの何か」と繋げる役割(仕事)をしています。ちなみに、私が好きなコトは、日本剣術(新陰流兵法)、日本の芸能(能楽)です。一生稽古を続ける予定です。


Creative Placemaking Director

小川滋

小川滋さんのプロフィール:
都市開発、ローカルのまちづくり、文化観光などの領域で事例を挙げながら、わかりやすい形で相談に応じます。実際に現場をうろうろして「きれい」「びっくり」「やべーっ」と大小あれこれ再発見します。同時に鳥瞰的に自然、歴史、文化がもたらす”場所の力”を紐解きます。強みは活かし、弱みを受け流したりキャンセルしたりして、よりうまくやっていけそうな地域や都市の在り方を描き出していく。そういう空間的、時間的に大きな人と環境のインタラクションを分析したり、デザインしたりします。


食・生活プランナー

川瀬麻紀子

SNS

川瀬麻紀子さんのプロフィール:
食・生活プランナー 京都 妄想構想化 サービスデザイン 日本料理、懐石料理 工芸 今更ながらコンセプター

ニューホライズンコレクティブ合同会社 代表/株式会社PLAN T. 代表取締役
クリエイティブディレクター、プロフェッショナルコーチ、NLPトレーナー

野澤友宏

野澤友宏さんのプロフィール:
【「教えあう社会、学びあう世界」を目指して】1999年に(株)電通入社。コピーライター・CMプランナー・クリエイティブディレクターとして、東芝・UNIQLO・ガスト・三菱地所・ナビタイム・リクルートなど100社以上の企業を担当し、1000本以上のテレビCMを制作。2020年末、電通を退社。2021年1月より「ニューホライズンコレクティブ合同会社」の共同代表として人生100年時代の新しい働き方・生き方を提案している。◆電通クリエーティブ局に配属後、日々、100案以上のCMアイディアを徹夜で考える生活をしながら、効率よくたくさんのアイディアを出す思考法・発想法を研究。「脳と心の取扱説明書」と呼ばれる最新の心理学NLPを学び、潜在意識を活用したオリジナルの発想法を開発し、さまざまな企業・学校で提供している。

NOTEさんの取組について

「NIPPONIA 五個荘 近江商人の町」。この宿泊施設は、「東近江市」と「㈱NOTE」の共同出資により設立された「㈱いろは」により維持・管理・運営されている。まずは、この出資会社である㈱NOTEによる「NIPPONIAという活動」について簡単に説明させていただきたい。 NIPPONIAは、「なつかしくて、あたらしい、日本の暮らしをつくる」という理念のもと、日本各地に残された歴史的建造物(主に古民家)をリノベーションし、その土地の文化や歴史を実感できる複合施設として再生していくという“取組”であり、宿泊施設のブランド名でもある。現在、NIPPONIAの施設は、全国30地域、163棟まで広がっている。 このNIPPONIAの理念は以下の通り。(NIPPONIAホームページより抜粋) 「たたみ、土間、縁側、客間、いろり、おくど、井戸、薪炭、里山、在来作物、伝統食、陶磁器、漆器、和紙、布、木工、家具、虫の音、鳥の声、闇、畏敬の念、五感、祈り、土地の神様、集落、商店街、まつり、子ども、家族、コミュニティ……日本社会が捨て去ろうとしているものに、もう一度、光を当てること。 そのことを、空き家となった古民家や文化財の活用から始めること。時間を湛えた空間をつくること。その職人がいること。そのこと自体を地域の産業とすること。 消滅に向かう歴史的な集落や町を地域のクリエイティブなコアに反転させること。私たちの国土を見捨てないこと。」 首都圏所在の企業投資で開発される「地方の宿泊施設」は、首都圏にお金が吸い上げられて行く。NOTEの活動の素晴らしいポイントは、その歴史的建造物の所有者、その地域のステークホルダーや住民に利益が還元される開発を行っているところだ。本質的な「地方創生」と言える。 例えば、NOTEの事業の原点「集落丸山」。12戸の集落のうち7戸が空き家という村だった。空き家である古民家を「一棟貸し宿泊施設」にし、ごはんや宿泊のおもてなしは、そこに住む村人が行う。村全体がホテルになる。宿泊客は一泊の村の住人になる。村に触れてもらうことで、その魅力を感じ、そこに移住してくる人や開業する人が生まれる。そして、村が再生する。NOTEは、地域課題のソリューションカンパニーなのだ。そして、「歴史的資源を活用した観光まちづくり」という地域創生のパイオニアである。 ※NIPPONIAについてより詳しく知りたい方はコチラ

お仕事の内容

今回の舞台は、滋賀県東近江市の「五個荘」の町。この町に2022年9月開業した、企業研修もできる宿泊施設「NIPPONIA 五個荘 近江商人の町」のコンセプト策定のお仕事である。 廣瀬さんは、NHメンバーからチームを作った。都市開発プランニング・ディレクターの小川さん、コンセプトメイクにコンセプター川瀬さんとコピーライター野澤さんをチームに迎えた。このチームで東近江市五個荘に赴き町を体感し、クライアント共に研修宿泊施設や町おこしの事例を訪ね、コンセプト開発を行った。事例研究としては、小川さんの人脈を辿って香川県三豊市を訪ねた。チームが着目したのは「三方よし」の精神。「五個荘」は近江商人の故郷。近江商人の精神「三方よし」に触れることが出来る。効率化・生産性重視のビジネスに限界を迎え、サスティナブルな社会づくりに世界が移行する今、「三方よし」の精神は改めて注目されている。 そして、「ビジネスをひと休みして、これからの商いを学ぶ宿」という研修宿泊施設のコンセプト構築にたどり着いた。

廣瀬さんがこの仕事をすることになった経緯

廣瀬さんは、NHで活動を始めた2021年、大阪からNOTE本社のある丹波篠山に移住している。現場に飛び込みトライしている地方創生のトップランナーである。50歳手前のタイミングで「あとどれだけ生きられるのか」「残りの人生をどう生きるのか」ということを考え始めたという。そんな折に、丹波篠山市と神戸大学のプロデュースする「篠山イノベーターズスクール」に参加したことが移住のきっかけとなった。 町を愛し、町に暮らし、町について共に考えてきたという、NOTEとの積み重ねからこの仕事が生まれた。

この仕事を通して学んだこと

廣瀬さんにこのお仕事を通しての学びや気づきを聞いた。 「今回の仕事でチームを作る際に、NHメンバーでもまだまだ知らない人が多いということに気づきました。電通では、クライアントごとに、そのソリューションや提案を行うチーム形成がだいたい決まっているけれど、今はその都度、新しいチームを作る。そのためにメンバーとなってもらえる人を知っておく必要がある。少し上から目線だけど、私が取ってきた仕事を形にしてくれる人を知っておかないと」と振り返る。NHメンバーは現在、電通のOB・OGで構成されているものの、それまでの勤務エリアや所属部署、年齢もまちまちであるため、お互いを知らない人も多い。「オンラインでもいいから、もっといろんな人と出会っておくことが大切」とこれからを語った。

最後に

実は、廣瀬さんは、以前に転職を考えるほどNOTEの活動に感銘を受けていたと聞く。NHメンバーとなってからも、頻繁にNOTEに足を運び、提案や会話を重ね、平均年齢30歳くらいの社員の人たちとの飲み会なども催してきた。今回のお仕事は、廣瀬さんとNOTEの情熱や志が共鳴して実現した仕事と言える。 廣瀬さんは以下のようにこの仕事の実現の過程を振り返る。 「私の電通での経歴は、メディア担当と営業が中心。アートディレクターやデザイナー、コピーライターやプランナーのような技術や知見があるわけではない。一方、NOTEの社員の人たちは、エリア開発経験者、設計士、地方銀行出身のファイナンスのプロなど。そこに自分が関わるのは難しいと考えていた。けれど、電通時代にやっていたメディアに毎日通うとか、スポンサーと毎日のように食事するという“昭和な””ベタな“営業が、ベンチャー企業であるNOTEさんを相手でも、役に立ちました。それは、NOTEの皆さんが日頃相手としているのが「地方」「地域」「小さな町や村」「自治体」。まずは酒を酌み交わし、お互いを知ることから始めることを信条としている会社だったから、かもしれません。そして、NHという新しい組織の魅力を伝え続けたことで、今回はコンセプト開発のお仕事を頂けました。そして、この仕事をきっかけに、私自身が今後カタチを変えて、NOTEさんの事業に長く関わり続けられそうです。本当にハッピーでした。」 今回のお仕事は、廣瀬さんの夢の実現の第一歩。これからも廣瀬さんとNOTEさんとの関わりに注目していきたい。 また、これまで身につけてきた知見や経験、ネットワークを「吐き出す時だ」と廣瀬さんは言う。「今吐き出さないと」という言葉には、残された時間への切迫感や継承したいという切望感、そしてその決意が感じられた。この知見・経験・ネットワークが仕事になりつつあることに、廣瀬さんは喜びを感じている。 「何の実績もない、海のものとも山のものとも分からないNew Horizon Collective という新しい会社に今回の仕事を依頼することは、NOTEさんにとって冒険だったと思う。とにかく感謝の一言に尽きます。」と廣瀬さんは噛みしめるように振り返ってくれた。

取材・文重田麗子