その時プラゴミは「プラギョミ」になった。「青い地球を育む会」と目指す明日のカタチ。

こうなってほしいと願う未来はあるけれど、そこにたどり着くにはあまりにも課題が多い。いったい何から手を付ければいいのかわからない。そんな焦燥感を私たちは感じることはないでしょうか。今回ご紹介する事例はもしかしたらそんな思いに対する一つのサジェスチョンになるかもしれません。いま年間800万トンに達すると言われる海のプラスチックゴミ問題。その改善に向き合おうとしている一般社団法人「SD BlueEarth・青い地球を育む会」(Sustainable development and the blue earth 略してSDBE)とニューホライズン(NH)メンバーの未来への取り組み。それぞれが持ち続けた環境に対する願いが一点に交じり合って、とても前向きであたたかい明日の可能性を示すことに成功しています。 (写真:左から浜島さん、さかなクン、今泉さん)

浜島デザイン株式会社
クリエイティブ・ディレクター

浜島達也

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浜島達也さんのプロフィール:
電通入社以降アートディレクターとしてSONY、TOYOTA、EPSONなどを担当。2004年から(株)ドリル立ち上げに参画。マスに囚われないノントラディショナル広告手法を実践。2013年からクリエーティブ・ディレクター。日本コカ・コーラ「GEORGIA」、リクルート「タウンワーク」、KIRIN「のどごし<生>、東北六魂祭、などのクリエーティブを担当。2021年より浜島デザイン(株)代表取締役。 受賞歴:カンヌライオンズ/ACC賞/TCC賞/広告電通賞 優秀賞/ギャラクシー賞/グッドデザイン賞/PRアワード賞など 東京藝術大学非常勤講師

さかなクン、イラストキャラクターになる

「電通在籍時に知り合いになった『さかなクン』の所属プロダクション、アナン・インターナショナルの社長さんから連絡があって、環境保全に係る社団法人を立ち上げたので相談に乗ってほしいと言われたのです」 もともと電通で出版事業関連の仕事をしている時に、社会や地球環境に関する雑誌の創刊の手伝いもしたこともあって、20年くらい前からこういった問題に関心を持っていた今泉さん。今回の仕事のきっかけをこのように話してくれました。 SDBEは「持続可能な開発目標」(SDGs)を支援し、さかなクンとともに海や川などの環境を守ることに力を注ぐ社団法人として設立。ただ日々の運営にあたって悩ましい問題もありました。さかなクンを旗印に活動拠点を作ったのはいいけれど、天候などに左右されやすい海などへのロケが重なると時間的な制約も出てきて、さかなクン自身の十分な行動範囲が取れないというジレンマです。その話を聞いた時、今泉さんの中で一つのアイデアが生まれました。 「であれば、SDBEとしてのさかなクンのキャラクターが『分身』となって活動すればいいのではないか、という提案をしたのです。人に捨てられたプラゴミともに活躍する『すすめ!さかなクン』というキャラクターを作ろう。そうする事で時間や場所に制約なく、書籍やアニメやサイバースペースにも登場できる。環境の話であればイラストのキャラクターを起点に、より広く多くの企業と一緒に手を取りあえるようになると」 たとえばごみ収集のボランティア活動であれば「拾え、さかなクン」、火力発電所のCO2の話であれば「さかなクンと火の鳥」、気候変動の海水面上昇の話であれば「さかなクンと南の島」など、書籍やアニメに向けた様々なストーリー展開もできると思いついたのです。つまりタレント本人としてのさかなクンの他に、社会貢献の場には代理人として活動できるさかなクンを公認キャラクターとしてもう一人作ろうという発想。 案はすぐに採用され、このアイデアによって環境に対して取り組める面積が格段に広がっていったのです。

プラゴミ、プラギョミになる

今泉さんがSDBEの事業コンサルとして活動するのに対し、浜島さんはクリエーティブディレクターとしてプロジェクトに携わっています。 浜島さん自身もSDGs的な運動に対して十数年来関心は持っていましたが、なかなか具体的な仕事として作業をできないジレンマも感じていました。「さかなクン」とともに海の環境問題をやっていきたいという今回のSDBEの方針に、とても可能性を感じたと言います。実際の「さかなクン」のイラスト化に関しては浜島さんの手に委ねられました。イメージ制作の試行錯誤を繰り返しながら、活動の全体の骨組みも考え始めます。 「最初に感じていたのは、海の環境の問題ってまだまだ認知も理解もされていない段階だなと思ったのです。まずその理解をできるだけ広げていって皆が意識し、アクションに結び付けられるような活動にしていかないと意味がないと思っていました」 浜島さんはまずボランティアで荒川のゴミ拾いに参加してみたそうです。 「ゴミを拾ったのはドッヂボールコートくらいのほんの小さな面積の場所ではあったのですが、そこには考えつくありとあらゆるゴミが散乱し、埋め尽くされていて、、、それがものすごくショックでした。もう人間はダメなのではないかと・・・」と浜島さんはその風景を思い返しながら苦々しそうに言葉を吐き出しました。 「その一方で、プラゴミをはじめとするこういったゴミはもともと人間の役に立っていたもの、人間の都合で作られ捨てられたものだということも感じたのです。一つ一つのゴミにも人とのストーリーがあったのなら、それもきちんと伝えていかなくてはと思ったんです」 その時もう一つのアイデアが生まれました。さかなクンのイラストとともにプラゴミたちもキャラクターにするということです。そう、それこそが「プラギョミ」さんたち。ペットウオ、ポリクラゲ、ビニカサゴ、センタクバサメ、、、。可愛いながらもどこか物悲しそうな表情が印象に残りますが、登場する彼らは決して単なるワルモノではない愛すべきキャラクター。 「さかなクンの世界らしく親しみやすく、人々の言の葉にも乗りやすいかなと思いまして」 イラストのさかなクンと交わりながら、これまで完全に悪のイメージだった海洋ごみが、全く違う新しい存在として人々に何かを語り始めることになりました。

夢の島で語られる夢

2022年10月1日と2日、東京・夢の島マリーナでおさかなと海に関わるイベントが開催されました。コロナの影響で3年ほど中止になっていたイベントでしたが、チームは「すすめ!さかなクン」の第1弾プロジェクトの発信の場として、共同参加することを決めました。かつてはゴミの島だった場所で、アクションの端緒を切るというのも意味のあることだと思えたのです。 NHの二人はここでも様々な仕込みを行うことになります。イベントにはさかなクンがメインキャラクターとして登場。今泉さんもファシリテーターとなり海洋ごみ問題についてさかなクンとトークセッションを実施します。また東京都の建設局と連携しながら実際に稼働しているごみ回収船を現地に手配しつつ、ワンワールド・ジャパン社を協賛社として招いて開発された「アーバンリグ※」という最先端のごみリサイクル装置を展示しました。隣のブースでは浜島さん力作の「はじめよう!プラギョミ0プロジェクト」のパンフレットが配布されます。子供たちも喜んで手に取りそうなかわいらしくて読みやすい装丁です。ページを開くと新キャラクターである「すすめ!さかなクン」や個性的な「プラギョミさんたち」がわかりやすく海洋ごみの話を解説。大仰なことはしなくていい、海を守るために「私たちができることから始めよう」と優しく語りかけます。 イベントは両日ともかつてないほどの大盛況で、マリーナには家族づれを含む様々な来場者で埋め尽くされていました。 ※「アーバンリグ」はプラごみをはじめとするあらゆる廃棄物を、前処理や分別など面倒な処理をすることなく、熱分解処理によって油分に戻す画期的な装置。資源を循環させる社会構造、いわゆるサーキュラーエコノミーを体現するものとして注目を集めています。

ビジョンに飢えていた

事業企画の方向性の策定から、イラスト制作、行政の窓口・協力団体への事前交渉や協賛社の獲得、イベントの運営実施、取材の手配、さらにはファシリテーター役まで。今泉さんと浜島さんの担う役割は多岐にわたります。今回こういった作業を推進するにあたって二人を動かしている原動力はいったい何なのでしょうか。 「モノゴトが始まるのっていつもちっちゃな動きで、それが波及的に大きくなっていくんですよね。そこに携われている感じがします。今回は小さな一歩ですが、イベントに参加した5歳のお子さんを持つ親御さんからも《プラゴミに対する子供の意識が変わり、とても素晴らしい内容だった》とメールをもらったり、協賛社や協力してくれた官公庁の人にも大変喜んでもらえたり。そういった手ごたえを感じられるんです」 と語るのは今泉さん。アクション2として来年にはさかなクンと考える「世界こども環境会議」、さかなクンとギョミ拾いをする「プラギョミ祭り」などをすでに企画。協賛パッケージとしてすでに商品化を進めています。 また浜島さんは「ビジョンのある仕事」という言葉を何度も使って話してくれました。 「広告の仕事ばかりに携わっていると、なんというか‘ビジョン’に飢えてくるのですよね。もちろん仕事なので、売上を上げたいとか、昨年対比をよくしたいとか、そういった要望には応えるんですけどね・笑。でもそれってビジョンではないですよね。このSDBEの仕事にはビジョンがあります。プラゴミを0にするなんて私たちが生きてる間は実現しないかもしれない。でもそれはどうでもいいんですよ、目標と生きることが大事。ビジョンってそういうものだと思うんです」 今後はもっとイベントを大きくして、大手企業の競合同士がこの一つの未来像に向かって手を組んでくれたら最高、と目を輝かせていました。 「僕も今は会社の社長ではあるんですけど、この仕事をしたことで少しずつ社長として語れるビジョンも持てるようになりました」(浜島さん) 独立して、2年弱。漠然としていた人生の進むべき方向が徐々に目に見える形に変わってきた。今回お二人の話を聞いて感じたのは、それにはやはり「遥かだけど確かな目標と、それに向けて踏み出す一歩」があったということ。 「私たちにできることから始めよう」巻末のパンフレットの言葉がよみがえります。 「さかなクン」と「プラギョミさんたち」がこの後どんな明日の海の物語を作り上げてくれるのか。いえ、作り上げるのはきっと私たち自身なのだと思いを改める筆者でした。

ライター黒岩秀行